お母さん

伯母が以前入所していた、介護老人保健施設。
その時伯母は、自宅前の坂で転倒して肋骨骨折し、入院の後の入所施設でした。

「介護老人保健施設」は、基本的には最長3か月ほどしか入所できません。
なぜなら入所の目的が、在宅での生活復帰を目指すことのため、医療的ケアやリハビリを受ける施設だからです。

伯母も認知症が進んでいましたが、自分では認めていませんでした。
自分が見えたもの、聞こえたもの、思ったことは、それが事実ではなくとも、叔母にとっては事実でした。

例えば、「ここは、けったいな(変な)音楽をずっと流すねん。お母さ~ん、お母さ~んってずっと言ってるカセットテープや」と、伯母は言います。
もちろんそんなことはあり得ません。

事実は、かなり認知症の進んだ車椅子に乗ったおばあさんが、食堂付近でずっと、「お母さ~ん、お母さ~ん・・・」と、言い続けているのです。一定の声で、一定のリズムで。
ですので、伯母にとっては、その声を録音しているカセットテープを一日中施設側がかけていると思ったのでしょう。

そのおばあさんの近くに行ってみてその姿を見せ、伯母に「カセットテープじゃないよ」と伝えても、一度思い込んだことが修正されることはありませんでした。

理性の部分が小さくなっていき、そして「お母さ~ん」と言い続ける、そのおばあさん。
かつて、母親との温かな思い出があるのでしょうか。

伯母は、自分の母親のことを嫌っていたため(かまってもらえなかったという恨みのようなものがある。その根底は、悲しみや寂しさなのだけれど・・・)、嫌な思い出話をする以外に母親の話をしたことがない。
伯母の認知症がさらに進んでも、あのおばあさんのように「お母さ~ん」と口にすることはが、あるのか?ないのか。

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